回答一覧 - 高度医療(体外受精・顕微授精・ギフト他) No.2 -
 体外受精がうまくいかず、主人と毎日ため息ばかりついて生活を送っていましたが、病院で知り合った友達と話をして勇気をもらいました。諦めないで、もう一度チャレンジしてみようと思います。次の治療はすぐに始めてもよいのですか?期間をあけた方がよい場合は、どのくらいあければよいですか?

 GnRHアゴニスト(GnRHアナログ)やGnRHアンタゴニストを使った場合には、2ヶ月ほどは間をあけたほうがいいと思われます。
 それは、排卵誘発剤を使うことにより、卵巣や子宮内膜はかなり疲へいしてしまうからです。月経周期が不順な方にはカウフマン療法をして、卵巣機能を回復させることは効果があります。全ての胚を凍結した場合には、採卵の次の周期はカウフマン療法で卵巣機能を回復させます。カウフマン療法を行った翌月から凍結胚を戻すことが可能となります。月経周期が規則正しい方は、自然排卵確認後、不規則な方はプレマリン(卵胞ホルモン、又はエストラーナの貼付薬)とヒスロン(黄体ホルモン)を月経周期より開始する方法で内膜を厚くしていきます。
(院長:田中温)
 カウフマン療法は、血液検査の結果によって処方が変わるのですか?私は、今まで同じ処方ばかりなのですが、それはどうしてでしょうか?そもそも、カウフマン療法とはどのような場合に適用されるのか教えてください。

 FSH(follicle stimulation hormone)は、脳下垂体より分泌されるホルモンで、女性では卵巣に作用して卵胞を発育させる働き、男性では精巣内の精細胞管に作用して精子の発育を司る働きがあります。
 排卵前にピークを迎えたFSHは、排卵後減少していきます。着床しなかった周期では、月経周期の後半になると、黄体ホルモンと卵胞ホルモンは減少し、FSHは次周期の卵胞発育の準備状態に入るため少しずつ分泌し始めます。排卵障害のある卵巣(特に高齢の方)では、このFSHの一連の変化が連動できず、その結果FSH値が高い値のまま次周期に突入してしまいます。このような内分泌環境では、良好な卵子の生成が妨げられてしまいます。そこで、カウフマン療法により、正常な排卵周期と同じような環境を人工的に作ってあげることで、卵巣は正常なスタートラインに立てるようになります。カウフマン療法は、基本的には卵胞ホルモンと黄体ホルモンを月経周期の前期と後期に分けて投与し、卵巣機能を正常に近づけることを意図として行います。
 高齢の方や中枢性の性腺刺激ホルモン分泌障害がみられる方の場合、採卵前の周期に投与すると効果があります。お薬の種類と量については、それほど大差はありませんが、症状に応じてお薬の量や割合を変えることは意味があります。プレマリンで吐き気を強く訴えられる方には、カウフマン療法の代わりに最新のピル(マーベロン21)が副作用の心配も少なくて有用です。
 FSHの値としては、15mIU/ml以下が一応の目安です。しかしながら、この値は決して卵巣の機能を完全に予測できるものではありません。FSH値および胞状卵胞の数、子宮内膜の厚さなどもあわせて検討する必要があります。
(院長:田中温)
 体外受精の治療を受けていて、いつも疑問に思うのですが、採卵をした後はどのように培養されているのですか?調べてみても詳しいことがあまりのっていないので、培養はどのようにして行われているのか教えて下さい。調べていて、共培養という方法を見つけたのですが、それはどういった方法ですか?有効な方法であれば試してみたいのですが..

 体外受精における胚の培養には、8細胞を境に、2種類の培養液を使います。前半では、卵管内の環境に近づけるような培養液、後半では、子宮内の環境に近い状態の培養液を用いております。内容成分としましては、エネルギー源となる糖のうち、前半の培養液にはグルコースの量を抑え、その代わり、乳酸、ピルビン酸の量を増やします。またアミノ酸は、非必須アミノ酸のみを含むように調整してあります。後半の培養液には、細胞の代謝活性が高くなりますので、グルコースの量を増やし、アミノ酸としては必須および非必須アミノ酸の両方を含んでいます。
 1種類の培養液を用いていた時代に比べると、現在では体外受精の着床率は明らかに高くなっており、この2段階の培養法は非常に有効だと思われます。
 さらに胚の培養率を高めるために共培養という方法もあります。卵管上皮細胞、卵丘細胞を人工的に増やし、その上で培養する方法です。卵管の中で胚が育つという環境に似せているわけです。この方法は効果的だと思いますが、一人一人の症例に共培養のシステムを用意することは非常に困難です。また、現在では、2段階培養が普及しており、その成績と共培養の成績に差がなくなってきておりますので、一般的には共培養は普及しておりません。
(院長:田中温)
 採取したすべての卵を凍結することがあると聞きましたが、どうしてですか?どのような場合にそうするのでしょうか。

 適応となるのは、1.卵巣過剰刺激症候群(OHSS)により、卵巣が腫れていて胚移植できない場合、OHSSの重症化を防ぐため、2.子宮内膜が薄く、なかなか着床しない場合には、無理に戻さず一旦全ての胚を凍結し、自然周期で胚移植を行う。3.患者さんが胚移植予定日に、何らかの都合で来院できない場合などがあります。一般的に、胚は、採卵2日目の4〜6細胞で凍結します。形態良好胚であれば、ほぼ全例でもとに戻り、80%で分割が進んでいきます。
(ラボディレクター:竹本洋一)
 現在33歳です。これまでに顕微授精を5回行いましたが一度も妊娠したことがありません。毎回、結果が分かるたびに非常に落ちこんでばかりです。費用と体のことを考えると、先のことが不安でなりません。
 何度も顕微授精を行うとリスクが生じてしまいますか?また、顕微授精で妊娠された方の最高回数はどのくらいなのか教えてください。

 顕微授精で妊娠する為には、まず良好な卵子、顕微授精の技術、顕微授精後の良好な胚、移植の技術、および着床の為の良好な子宮内膜が必要です。このすべてが揃わなければ妊娠には至りません。顕微授精による胎児のリスクは、正常妊娠と変わりません。顕微授精で妊娠された方の最高回数は20回という方もおられます。これは顕微授精というよりも、卵の質の問題だと思います。ですから、あなたの場合も、顕微授精が問題なのではなく、いかにして良い卵を作るかということが問題になっているように思います。
 良い卵を作る為には約10通り程の方法があります。月経初期の卵巣に検査を行い、胞状卵胞(未成熟な卵胞)の数、大きさ、位置などから、最も適した排卵誘発法を見つける事が大切です。
 また良好な胚ができたとしても子宮内膜が薄い場合には、例え胚盤胞移植をしたとしても、着床率が下がります。このような場合には、全胚凍結し、自然周期に戻す方が有利となります。但し、施設によって技術の差があり、凍結技術が完全でなければ胚はダメージを受けますので、その点は注意しなければなりません。
(院長:田中温)
 遠隔治療を予定していますが、1回の体外受精をする場合、どれくらいの通院が必要なのか教えてください。平日は昼間に仕事をしておりますので、できれば、地元の病院で出来る範囲の治療はしたいと思っています。遠隔治療で体外受精を行うための大まかなスケジュールを教えていただければ参考になります。

 初診時に、近医(ご自宅の近くの医院)あての紹介状を書きます(遠方の方で2回目以降の治療を希望する方は、電話等で治療方針を確認し、紹介状を郵送することもできます。)ので、紹介状をもって近医へ受診して下さい。近医では、排卵誘発剤を処方していただき、卵胞の大きさを計測してもらって下さい。
 卵胞が16〜18mmになりましたら、当院へ電話等にて、卵の大きさを報告して当院の指示を受けてください。卵胞がよい大きさになりましたら、HCGの注射を夜21時以降にうち、その2日後が採卵となります。
 採卵当日は8時15分(2005年9月現在)までに来院していただきます。採卵後、帰宅希望の方はご帰宅いただいても構いませんが、近くのホテルや旅館への滞在をおすすめしております。滞在される場合は、当院近隣に特別割引で宿泊できる施設もございますのでお問い合わせ下さい。
 採卵後は、基本的には、採卵の2日後に戻し予定となりますが、卵の状態や内膜の厚さを見て、最も着床率の高くなる日に胚移植を行うため、2日目には戻さず、3〜5日間、培養することもあります。胚移植後は、1時間ベッドで休んでいただき、その後、帰宅可能となります。
 遠方の方で1回の滞在で1日しかとれない場合には、採卵後、体外受精後の胚は全て凍結しておき、自然周期に戻す方法をおすすめしております。この方法であれば、当院への来院は各々1日で済みます。妊娠率は、この凍結胚自然周期戻しの方が、一番高くなっております。
 大まかなスケジュール
 (当院)初診---(近医)排卵誘発・卵胞計測---(当院)採卵・【2〜5日後】胚移植
(外来スタッフ)
 他院にて、仕事をしながら不妊治療をしていますが、どうしても休めなくて、毎月の通院ができません。体外受精になると、今の病院で治療を続けることは無理だと思います。
 セントマザーでは時間外診療もしていると聞きましたのでお便りをしました。仕事が終わってからそちらに向かうと、夕方7時くらいには、病院に到着できると思います。注射は会社の帰りに行き、採卵や戻す時などは、こちらの希望の時間に合わせていただくことは可能ですか?

 当院では、卵胞の大きさのチェックは、時間外診療(平日午後6時以降、日曜、祭日)も行っていますので、仕事をされていても体外受精は可能です。ただし、基本的には、HCGをうつ時間と、採卵時間はある程度決まってきます。
一般的に、戻す時は、2日目・3日目・桑実胚期・胚盤胞期のいづれかに戻します。しかし、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の場合には、全胚凍結を行い、後日自然周期に凍結胚を戻すことになります。戻す時間は、午前と午後がありますので、ご希望にそうことができます。
(産婦人科医:永吉基)
 私は、HCGを投与していますが、HCGで卵巣の働きが悪くなると聞いたのですが本当ですか?ホルモン剤にはいくつか種類があると思うので、もしも卵巣の働きが悪くなるのであれば、別のホルモン剤に変えたいのですがそういうわけにはいきませんか?

 HCGは、排卵誘発で発育してきた卵子を最終的に成熟させ、排卵に導かせる働きをするホルモン剤です。HCGは、体内でLHと同じ働きをします。HCGを使うことによって卵巣機能が低下するということはありません。
 排卵誘発のために、HCGの代わりにGnRHアゴニスト(スプレキュア、ナサニールなど)を使う方法もあります。この方法は、HCGに比べて、LH作用が短くなります。ですから、卵巣過剰刺激症候群が予測される方には、HCGよりもGnRHアゴニストを使用する方が安全だといえます。採取した卵子の質に関しては、HCGとGnRHアゴニストに差はありません。
(院長:田中温)
 先日、アシステッドハッチングについてお話がありました。自宅に戻って、色々調べてみると、最近ではレーザーAHAが人気だという情報を得ました。不妊治療をしている友人にも同じことを聞きました。AHAにはどのような方法があるのですか?また、どの方法が一番よいのですか?

 卵子の外側には透明帯という膜があります。胚盤胞の時点になると、胚がこの透明帯を突き破って脱出(ハッチング)し、子宮内膜に着床します。透明帯は着床までの間、胚を外界から守る働きをしています。しかしながら、体外培養をすることにより、この透明帯が固くなったり、厚くなったりして、ハッチングができなくなることがあり得ます。このような場合には、前もって透明帯の一部にスリットをつけるアシステッドハッチング(AHA)が有効であると思われます。
 しかしながら、動物実験や当院の臨床成績により、アシステッドハッチングは、当初考えられていた程、効果がないことがわかってきました。ですから、当院では、透明帯が明らかに厚くなったり、または少し色が黒ずんでいるような胚など、限られた症例にのみアシストハッチングを行うようにしております。(このような症例は、特に高齢者や凍結卵に多く認められます。)透明帯の状態が良好な場合には、却って胚の発生を損なうこともありますので、患者様によく説明をして、ご希望があってもあまりおすすめできない場合もあります。
 アシステッドハッチングをする方法には、1.薬物を用いて穴を開ける方法 2.細いガラスの針でスリットを物理的につける方法 3.レーザーで穴を開ける方法の3通りがあります。
 レーザーを用いたアシステッドハッチングは非常に短時間でできるという利点はありますが、透明帯を部分的に蒸散(消滅)させてしまい、大きな穴を開けてしまいます。その結果、本来卵子を守るべきバリアーの機能が失われるということ、また胚が発生の途中に脱出するというリスクがあります。ですから当院ではレーザーでのハッチングはあまりおすすめしておりません。
 当院では、化学薬品を使う方法よりも物理的に透明帯にスリット(溝)をつける方法をおすすめしております。この方法であれば隙間ができても、その部分は穴が開くわけではなく、フタをしているような状態になりますので、ハッチングするまで胚を保護する機能は損なわれずにすむからです。
(院長:田中温)
 AHA(孵化促進法・assisted hatching)とは、質的異常をきたした移植胚の透明帯の一部を切開する、あるいは穴を開けるなどの処置を施して、ハッチングを促進させる方法です。
方法には、化学的方法と機械的方法があります。
化学的方法には、酸性タイロード液などの強酸性溶液を透明帯に吹き付けて穴を開ける透明帯開口法、蛋白分解酵素溶液により透明帯を薄くする透明帯菲薄法、同様に蛋白分解酵素溶液により透明帯を完全に溶解する透明帯完全溶解法などがあります。
 機械的方法には、先端が数ミクロンという細いガラス針で透明帯の一部を切開する透明帯切開法(PZD)、レーザーを使って透明帯の一部を円形に蒸散させるレーザー孵化促進法(LAH)などがあります。 化学的方法は、特殊な機械は必要ではなく、実態顕微鏡下にて胚を操作するテクニックにより酸性溶液に移植胚を浸漬し、洗浄することで行うことができます。
 機械的方法は、PZD法においては顕微授精に使用するマイクロマニピュレーターが必要で、その操作方法に習熟していることが必要ですが、AHAとしては最初に発表された方法で、顕微授精の技術があれば比較的容易にその効果が期待できる方法です。
 LAH法は、レーザーを使用するため高価な機械を必要としますが、その操作方法に習熟すれば、比較的容易に透明帯に処理を施すことができます。
以上の様に様々な方法がありますが、どの方法も技術の習熟、安全面に配慮した施行により一定の効果が期待できると思います。
 AHAの適応についてですが、1.良好胚を移植しているにもかかわらず、なかなか着床しない場合、2.透明帯が茶色を帯び、硬く厚い場合、3.透明帯に質的異常が認められる場合、4.子宮内膜が薄く、着床しにくい場合などがあります。
 また、リスクについてですが、一卵性双胎の可能性が高くなるという報告があります。これは、透明帯を薄くしたり、切開することで、胚盤胞に成長した胚の内圧が上がらずにハッチングしてしまい、内細胞塊(将来、赤ちゃんになる細胞)が2つに分離して起こるといわれています。そのようなことについても、担当医と十分にディスカッションをして理解しておいてください。
(ラボディレクター:竹本洋一)
 不妊治療を行っている友人から、戻しを行った後にプロゲテポーやHCGなどの注射をすることがあると聞きました。近々戻しを行う予定ですが、セントマザーではどのような処方をするのですか?

 自然周期で黄体期(高温相)が10日未満の方の場合には、黄体ホルモン坐薬、飲み薬と少量の卵胞ホルモンを同時に投与しています。しかし、この黄体機能を補助すると考えられているお薬を投与することで、着床率が急に上昇するとは思わないで下さい。
 効果は、1.プロゲステロンの毎日の筋肉注射 、2.HCGの隔日投与法、3.プロゲデポー、4.プロゲステロン膣坐薬となっています。プロゲステロン(黄体ホルモン)の筋肉注射は効果は高いのですが、遠隔治療の方は、毎日通院できないこと、痛みを伴うことという欠点があります。HCGは、卵巣が腫れている場合には、腫れがよりひどくなることもありますので注意が必要です。腟錠は、使い易さでは最良ですが、かゆみや帯下が増えるなどの欠点があります。ですから、ひとりひとりに合わせた投与を相談していきます。現在のところ(平成17年8月))当院では、使いやすさの点から、坐薬をお勧めするようにしています。
(産婦人科医:永吉基)
 私は痛みにとても弱いので、治療がとても怖いのです。注射を打つだけでも涙が出そうになります。今度、採卵をすることになったのですが、痛いのではないかと考えると本当に不安です。こんな私でも大丈夫でしょうか?強い麻酔を使って、まったく痛みを感じなくしてもらえますか?もしも強い麻酔を使った場合には、覚めにくいなど問題はないのですか?

 採卵時は、安全に配慮し、痛みをとるのに十分な麻酔をかけますので、目が醒めたときには採卵は終わっていますから心配ありません。セロフェン等で数を少なく卵を作って採卵が1〜2ヶの場合は、鎮痛薬であるボルタレン坐薬の使用のみで採卵することもありますし、アレルギーの素因のある方で、痛みを我慢できる方は、無麻酔で行うこともあります。
 しかし、痛みに弱い方は、全く痛みを感じないように麻酔をおかけしますので遠慮なくおっしゃって下さい。また麻酔をかけることによって、醒めないことはありません。麻酔をかける際は、薬を注入するため、また万一の状態に即応するため、点滴をとりますが、その時の痛みは軽いので我慢をお願いします。
(産婦人科医・麻酔科医:姫野憲雄)
 今回の治療で妊娠しているような予感がします。しかし、これまでにその期待に裏切られてばかりなので、妊娠判定を受けることが少し怖いです。どの時点で「妊娠」ということになるのでしょうか。また、HCGの注射をしましたが、妊娠判定に影響はないのでしょうか?

 妊娠判定は、採卵から2週間後の尿中のHCGを調べる方法が一般的です。この方法で陽性となりましたら、約1週間後には超音波で胎のうが見えてきます。さらに1週間後(6〜7週)には、心拍が確認できるようになります。臨床的には、胎のうが確認できて初めて妊娠と診断する方法が一般的です。
 黄体機能を補充する目的でHCGを筋肉注射することがあります。この場合には、妊娠反応が間違って陽性となることがありますので、妊娠反応検査は注射後7〜10日以上あける必要があります。
(院長:田中温)
 胚移植をした後は、なるべく安静にしておいた方がよいのでしょうか?重い物をもったり自転車に乗ったりすると、妊娠しにくいような気がします。これまでに胚移植後にした行動のため、うまくいかなかった例はありますか。また、絶対にしてはならないことや気をつけることがあれば教えてください。

 胚移植後の生活に関しては、とても気になること思います。しかし、私達は基本的には何をしても構わないと指導しております。自然妊娠をされたご夫婦が、排卵後や、受精後の生活を気にしながら過ごすことがないのと同じように、特に注意することはありません。普段通りに過ごされて構いません。移植後に重い物を持たれたり、自転車、飛行機に乗られても構いません。欧米の施設では、胚移植後は安静にせず、そのまま帰宅されている程です。安静にしなくても着床率に差はないという報告があります。当院では、以前は胚移植後、3時間安静にしていただいておりましたが、現在では、1時間と短くなっております。
 これまでに、今回は絶対妊娠しないだろうと考えた水泳のインストラクターの方が、胚移植直後から継続的にプールに入り、その後、男児を出産されたこともあります。しかし、結果が悪かった場合には、あれが悪かったのではなどと後悔されることもありますので、ご自分で不安に思われるようでしたら、ひかえめにお過ごしになられてはいかがでしょうか。
(院長:田中温)
 こんにちは。今度、そちらで初めて採卵をします。採卵の時には麻酔をすると説明を受けました。私は、これまでに手術室に入ったこともなく、ドラマでよく見るような手術室を思い浮かべては、少々恐怖を感じています。採卵は、実際にどのような順序で行うのですか?不安を取り除くために、自分の中でシミュレーションのようなことをしたいので、細かい部分を教えてくださいませんか?

 採卵時の麻酔は、静脈麻酔と笑気ガスを併用しての麻酔になりますので、まず血管確保のため点滴をとります。点滴をとる時、麻酔使用することと、また氏名の間違いのないよう、患者様1人に対して、看護師2人(または1人)と助手1人で必ず確認を行います。
 点滴は、5%のブドウ糖液で体に必要な栄養・水分補給を行い、手術前は薬は特に何も使用しません。麻酔薬等は全てオペ室に入ってからオペの直前に入れていきます。
 また、採卵後は感染予防のため、(炎症を起こしたり、化膿したりしないように)抗生剤を使用しますので、事前にアレルギーのテストを行います。アレルギーテストは、抗生剤と対照液の生食水を2ヶ所、注射で少量ずつ入れて、約15分後比較してその反応をみていきます。2ヶ所とも反応がないことを確認して使用します。もし、抗生剤に対してアレルギー反応が出た場合には、他の系統の抗生剤を使用します。
 採卵前の準備が終了しますと、後は順番が来るまでベッドで待機していただきます。順番がきましたら、オペ室に入る直前に排尿を済ませていただきます。オペ室に入り、手術台に上がる時、再度、麻酔使用することと、氏名の確認を行います。手術台では心電図、モニター、血圧計、SaO2(血中内の酸素濃度を測定する為に指先にクリップを装着します)モニターをつけ、オペ前の状態を計測・記録します。麻酔中、無意識に動いてベッドから落ちたりしないよう、手足を補助帯でしっかり固定します。オペ前に記入してもらったアンケート内容(薬・食べ物でのアレルギーはないか、絶飲食であるかなど)と、モニター上の異常がないかを確認後、まず、痛み止め(ペンタジン)を点滴のルートより注入します。その後、麻酔薬(プロポフォール)を入れて、完全に眠ります。その後、膣内の消毒をして、採卵が始まります。採卵の所要時間は、卵胞1個あたり約1分です。ですから10個あれば大体10分位で終わることになります。採卵中は持続的に麻酔薬を入れ、患者様に合わせて麻酔の時間・量を調整していきます。
 途中、もし目が覚めることがあっても、すぐに麻酔を適量追加して、麻酔の深さを微調整することができます。麻酔には、麻酔の専門のドクターが管理します。採卵が終わるとただちに麻酔をきり、覚醒させます。しばらくはボーっとした感じが残りますが、覚醒をしっかり確認できましたら、ストレッチャー(移動ベッド)で移動して回復室で個人差はありますが、2〜3時間安静にしていただきます。その間15〜30分おきに看護師が見回り、状態をみていきます。(痛み、気分不良、フラつき、血尿、血圧など)患者様が異常を訴えれば、まず、看護師が血圧測定を行い、どんな症状なのか具体的にきいて、対処を行います。そしてすぐに麻酔医に報告し、指示をもらいます。状態が完全に回復するまでは、何かあったときにすぐに薬を投与できるように点滴はつながったままになります。その日の内に状態が落ち着かなければ、入院していただく場合もあります。完全に回復するまで責任をもって対処していきます。状態が落ち着いていれば、点滴をぬいて、今後の治療の流れについてご説明致します。
(手術部看護師主任)
 ホルモンを測定するために、頻繁に血液検査をした方がよいと聞きましたが、しばらく血液検査をしていないと思います。自分から申し出なければ検査をしていただけないのでしょうか。それとも必要がないのでしょうか。

 排卵誘発法を決める時に行う血中ホルモン測定(FSH、E2)は価値がありますが、一般的には、月経発来前(もしくは月経初期)の子宮内膜や、将来卵胞となる(卵巣内の)未熟な卵胞の数と大きさを観察する方が、卵巣機能を正確に予測する上で有用であると評価されています。
 着床状態を予知するためのエストラジオール(E2)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の測定は、黄体機能補充法を選択する上で重要です。
 E2は、排卵直前だけでなく、黄体中期にも軽度上昇してきますので、採卵2〜4日目にE2、Pを測定し、それぞれの値が平均値を下回るようであれば、プレマリンまたは黄体ホルモンの坐薬(筋肉注射)をお出ししております。
 着床をするかどうかは、最終的には内膜の状態で決まります。E2の値が高いからといって、子宮内膜の状態が良いとはいえない場合が多々あります。内膜が非常に薄い場合には、着床率は著しく低下します。E2は子宮内膜の厚さに影響を与えますが、E2以外の内膜の局所的に作用する因子(サイトカイン、成長因子など)の関与も重要であると報告されており、血中ホルモン(E2、P)の測定だけで全てを予測することは困難であるとお考え下さい。
(産婦人科医:永吉基)
 体外受精で卵を2つ戻して、めでたく妊娠しました。その結果がとても嬉しかったことを覚えています。当初は子宮外妊娠を心配していましたが、子宮の中に胎児が1人いたので、主治医の先生から子宮外妊娠の危険性はないだろうと言われて安心していました。でも、もう1人の胎児が子宮外妊娠という結果になりました。これはよくあることなのですか?

 これは子宮内外同時妊娠という非常に稀なケースですが、体外受精では起こりうることです。子宮外妊娠を母体に影響ないように、手術的処置を行うことで、子宮内妊娠を安全に継続することは可能です。
(産婦人科医・麻酔科医:姫野憲雄)
 採卵をして、胚移植の時に、内膜が薄かったために長期培養になりました。胚移植は5日後に決まったのですが、その5日間に内膜が段々薄くなっていくということはありませんか?

 通常、子宮内膜は増殖期から分泌期にかけ、dynamicな変化が起き、着床に向けて準備がなされます。超音波上は、木の葉状を呈していたもの(hypoechoicとhyperechoicの泌在)が、全体に均一なhyperechoicな像に変化し、厚くなっていきます。
 一般的には、子宮内膜は厚くなっていきますが、変わらない場合や逆に薄くなっていることもあります。これは、内膜の変化が乏しい場合(着床へ向けての準備がうまく成立しない時)に起こります。子宮内膜と子宮筋層との超音波像上の差が少なく、子宮内膜は厚くなっているのに、みかけ上、薄くなってみえることもあります。
 上記の2例は、3Dの超音波(カラードップラー法)で子宮内膜の血流状態をみることで区別が可能です。内膜の変化が乏しい場合には血流が乏しく、厚くなっているのに超音波像に変化が見られない場合には血流が豊富であるという違いがあります。
(産婦人科医:永吉基)
 アロマ効果のある薬草を煎じたお茶が、ある種のピルの効果を低下させる危険性があるというお話を聞き、不安になってお便りしました。
 現在排卵誘発剤を使っていますが、その間にローヤルゼリーやコラーゲンを服用しても問題ありませんか?排卵誘発剤の機能を低下させる食品などがあったら、教えてください。

 現在、色々なお茶やサプリメントで健康効果を期待するものが大変多く出回っております。ご質問のロイヤルゼリーやコラーゲンは、服用しても宜しいと思います。
 しかし、サプリメントやお薬などの中には、薬の吸収を阻害するものもあります。治療中においては、できるだけ食物(食品)から自然の栄養素を摂り入れることが大切だと思います(妊娠中も同様)。食事には十分気を使い、バランスの良い食事を摂ることが最も大切です。
(薬剤師・カウンセラー)
 こんにちは。不妊治療を始めて半年になります。不妊治療については、色々と勉強をして、少しずつわかってきました。これからの治療では、自分の体質に合わせた方法を積極的に試していきたいと思っています。そこで、まず質問があります。排卵誘発法には、ショート、ロング、自然法などたくさんの方法があって、一番自分にあう方法がどれなのかよくわかりません。治療をするにあたっては、それぞれの方法に関して、詳しく知っておきたいと思います。それぞれがどのような場合に適用になるのかを教えてください。

 体外受精で高い妊娠率を得るためには、まず良好な卵子を発育させることが必要です。自然周期では卵子が1つ発育しますが、卵子が1つの場合での体外受精の妊娠率はかなり低くなります。 卵をたくさん(多すぎはダメ)、しかも質を下げないでいかに作るかが、体外受精における研究の約20年間の課題であり、歴史でありました。
 当初は、クロミッド+HMGの排卵誘発が主流でした。しかし、このクロミッドないしはHMGを使う排卵誘発の最大の問題点は、排卵する直前に上昇するLHホルモン(黄体化ホルモン)の発生時期が早まるという点でした。この発生時期が早まると、卵胞内での卵子の発育が妨げられて、質の低い卵子が作られてしまいます。また採卵前に排卵してしまうことも20〜30%ありました。
 このLHの発生時期を成熟した卵子に発育するまで抑えることが重要な課題となり、pureFSH、GnRHアゴニストやGnRHアンタゴニストというお薬が登場してきたわけです。  現在の体外受精治療では、GnRHアゴニストまたはGnRHアンタゴニストを使いながら、FSHまたはHMGを投与し、卵を作るという排卵誘発法が主流となっています。更に、発育する卵子の数が多すぎた場合は(卵子数のわりに)質の高い卵子の採れる数が少ないことや、卵巣過剰刺激症候群などの副作用が起こるということを考慮に入れ、卵胞数を10個前後に抑える方法が最良であるとされています。
 しかしながら、女性の卵巣機能は、その月によってかなり変動し、同じ量の卵誘発剤を使っても全く質の異なった卵子が採れるということがよくあります。このように、最も適した排卵誘発法は、同一人でも治療の時期や周期によっても異なります。
 ですから、私達は、まず排卵誘発を行う前の周期には、ホルモン剤を服用して、卵巣機能を正常の状態に戻してから排卵誘発をするカウフマン療法を行うようにしております。特に月経周期が不順の方や多嚢胞性卵巣、高齢の方にはこのカウフマン療法は重要だと考えております。
 ショートとロングの使い分けに関してですが、一般的に年齢が20代〜30代前半の方の場合にはロング法(特にウルトラロング)、30代後半以上の方にはショート法を使っております。年齢が高くなるに従い、GnRHアゴニストやGnRHアンタゴニストを使うことによって、却って卵巣機能を抑えてしまい、卵ができなくるということがよくあります。このような場合には、クロミッドのみ、又はHMG+クロミッドの方が有効だと考えております。
 アンタゴニストは最も新しいお薬ですが、効果としては従来のGnRHアゴニスト(スプレキュア、ナサニール等)とほぼ同様の効果といわれております。アゴニストを使うと発生する卵胞の数が多い方には、アンタゴニストの方が質の高い卵が採れる傾向があります。アンタゴニストを使うことにより発生してくる卵胞の数はアゴニストよりも少なくなる傾向があります。
(院長:田中温)
 私は内膜が厚くならず、なかなか着床しません。このままでは、ずっと妊娠できないのではと不安でいっぱいです。もし、今度また内膜の状態が悪かったらと考えると、治療を続けることがつらいです。内膜を厚くするにはどうすればよいのでしょうか?

 採卵後、質の高い受精卵は体外培養開始2日目で4〜6細胞、3日目で8〜10細胞、4日目で桑実期胚(20〜30細胞)、5日目で胚盤胞(約50〜60細胞)へと発育していきます。どのステージで胚を戻すかということは重要な問題となります。
卵管内で発育したヒト胚は、桑実期胚〜胚盤胞で子宮腔内に入り、着床すると言われております。ヒト以外の哺乳動物では胚盤胞期より以前のステージでの着床率は非常に低くなりますが、ヒトだけは例外で、受精卵以後どのステージでも着床は可能となります。
 Sequential medina(2段階培養液)が実用化されるまでは、ほとんどの胚移植は採卵2日目の4〜6細胞で行われていました。胚の発育が進むに従って、胚一個あたりの着床率は間違いなく高くなりますが、全ての胚が長期培養に耐え、正常に発育していくわけではありません。高度医療技術が発達した現在の培養環境であっても、生体内での自然環境には及びません。あまり知られていませんが、胚によっては、無理に長期培養をしないで、採卵2〜3日前の4〜8細胞期に移植する方が着床する可能性が高くなるのです。
 割球の大きさが揃っているか、色調はどうかなどの胚の状態や、発育スピードを観察して、もし不揃いになったり、色が少し黒ずんできた場合には、退行変性(アポトーシス)を起こし始めていると考えて良いと思います。このような胚は、もともとの胚の遺伝子レベルでの障害の結果か、体外環境があっていないかのどちらかであり、そのまま培養を継続するよりも、子宮内へ早く移殖した方がいい結果となります。
 もし、子宮内膜が薄い場合には、例え胚盤胞で戻しても着床率はかなり低下します。当院の成績では、内膜が7mm以下の着床率は、内膜が10mm以上の約1/3であるという結果が出ています。また、ほとんどの方は、採卵周期よりも自然周期の方が内膜の状態は良好となります。ですから、当院では内膜が薄い場合(7mm以下)には、原則として採卵周期には戻さず、全胚凍結を行って自然周期に戻すようにしております。胚の凍結の成績は、採卵2日目の4〜6細胞で最も高くなり、培養日数が長くなるに従い、低下してまいります。ですから採卵2日目に子宮内膜を測定することは重要な検査となるわけです。
 しかし、自然周期でも内膜が厚くならない方もおられます。このような場合には、凍結卵を融解後2〜3日培養し、桑実期または胚盤胞にまで発育させて戻すという方法をとっております。
(院長:田中温)
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